サンクコストのお話
久々の更新になりました。
買い手企業にとり、気を付けなければならない点のひとつに、業者が持ち込む情報の正確さがあります。最近、業者の質が低下し、一次情報を持っていない(また聞き)で、案件を持ち歩く程度の低いブローカーが跳梁跋扈しているので、注意が必要です。
また、買い手を振り回す要因のひとつに、“なんちゃって売却”があります。これは、売る気など更々ないのに、「会社を売却したい」と言って、買い手や業者を振り回す悪質な経営者を指します。
その目的は、売る気は全くないが、自分の会社がいくらで売れるのかを知ることです。このため「会社を売りたい」と嘘をつき、買い手や業者を振り回す困った人たちです。買い手から条件が出てきたところで、難癖をつけて売却をやめ、買い手に迷惑をかけてしまう困った人たちです。こういう人たちに振り回された時間は、買い手にとって“サンクコスト”になりますので、注意が必要です。
稀にですが、当社にもこういう話が持ち込まれ、時間を無駄に過ごすことがあります。しかも、中には「会社を売る気になった」と再び電話をしてくる猛者もいます(苦笑)
逆のケースもあります。”なんちゃって買収“とでも呼びましょう。
これは、買う気もないのに「当社は企業買収を真剣に検討しています。」と言い、売却希望会社の情報を集めている担当者を指します。彼らはM&Aが失敗して、社内で責任を問われるのを恐れているのですが、上から「M&Aを検討せよ」と言われているので、ひたすら、売り手の情報を集めますが、最終的には「国家安康」と言い、M&Aを見送りにします。彼らの目的とは、上司に対し「しっかりM&A情報を集め検討していますが、良い案件がありません。」と社内にアピールすることが目的です。
こういう方々も真剣に企業売却を検討している方や業者とっては、迷惑な存在以外の何物でもありません。
東芝の企業再生について
平成29年7月12日のフジサンケイビジネスアイに掲載された東芝再生提案の全文をアップします。
要点は、以下の通りです。
1.東芝の収益の源泉はメモリ事業
2.メモリ事業を売却すると、東芝の営業利益(本業で稼ぐ利益)は、4分の1に激減する
3.売却については、米国の企業から訴訟も起こされ、売却交渉先の韓国企業が3分の1強の拒否権を要求するなど、交渉が難航している。海外への技術流失の懸念もある。
4.会社更生法による手続により、メモリ事業を売却しない形で、東芝の企業再生を行うことも選択肢
5.会社更生手続きは、裁判所を通した透明性の高い手続きであるが、取引先の債権一律カットが起こり、資本提供者にとっては、その株式価値がゼロになる。
6.メモリ事業売却のない形で東芝が会社更生手続きを行い、東芝が生み出す収益を更正債務の弁済原資とする。この場合、政府系ファンドをスポンサーにする。投資ファンドは日本航空の事例の様に、業績回復後に株式上場を果たし、投資資金を回収するのもひとつの考え方
7.6により、上記3に記載された懸念点も解決できる
尚、蛇足ですが、政府系ファンドがEXITする際に、外資系が占める株主構成に配慮することが肝です。でないと、日本航空の様に外資系企業が過半数の議決権を得る事態を招きかねません。
それでは、以下、平成29年7月12日のフジサンケイビジネスアイに掲載された全文を掲載します。
今回は、東芝の経営再建について考えます。
まず、現状です。同社は、2017年3月期で約5,816億円の債務超過に陥り、定時株主総会開催時点でも、同社の独立監査人による、監査手続きが継続する状況になっています。
東芝は、“ストレージ”、“社会インフラ”、“エネルギー”を中核事業に位置づけましたが、エネルギー事業は米国子会社に大規模損失が発生し、法的整理に追い込まれ、債務超過になりました。債務超過を解消し、財務的な危機を回避するため利益を稼ぎ出す“メモリ事業”を分社し、2兆円とも言われるメモリ事業の売却代金で、金融機関等の債権者は東芝への貸付金を1兆2038億円(2017年3月末)の一部を回収し、東芝は債務超過を解消し、上場を維持するとしています。一方、技術提携先のウエスタン・デジタル社からは売却中止の裁判を起こされ、更に、外国への技術流出も懸念されている状況で、*日米に韓国を加えた陣営に売却する方向になっています。
2017年3月期にメモリ事業が稼ぎ出した営業利益は2000億円前半と言われており、東芝全体の営業利益2700億円の実に約80%を占めます。
今年度の東芝の事業計画によると、メモリ事業を売却しない場合の営業利益は2000億円であるのに対し、メモリ事業を売却した場合の営業利益は500億円しか計画されていません。
メモリ事業を売却すると営業利益が約四分の一になることが判ります。
メモリ事業の売却話が先行し、東芝に高い収益を生む中核事業がないまま、今後どの様に利益を確保するのかが、殆ど議論されていません。
東芝の技術は、国家安全保障を含む多方面で使われていることも見逃してはならない点です。
そこで、東芝にメモリ事業を残したままでの再建路線を基本とする企業再生方法はないのかということになります。この課題を解決する案のひとつが、会社更生法に沿った手続です。
会社更生手続は,倒産によって社会的に影響を及ぼす大規模企業の経済的更生を目的とする手続で、近年の代表的な事例は,日本航空が挙げられます。会社更生手続では、裁判所の監督下で、裁判所から選任された管財人が事業を継続しながら企業再建を目指します。管財人主導で企業の財産処分が厳格に進められ、債権者が持つ債権もカットされます。部品を納めてきた取引先にも平等に債権カットの負担が生じます。技術的な話になりますが、債務免除益が問題とならない場合、資本金は100%減資した後に、第三者割当増資を行うケースが多く、東芝は上場廃止になり、株主も出資の範囲で責任を負います(なお、債務免除益が議論される場合は、第二会社方式をとることが多いです。この場合は、更生会社は清算手続に進むのが一般的ですので、その時点で株式の価値は無価値化します。)。
この様な負担を伴う会社更生手続ですが、東芝が会社更生手続を申し立て、その更生債務を東芝の生み出す収益(2018年3月期の事業計画ならば、2000億円の営業利益)で一定の期間に分割弁済する収益計画型の手続を選択すれば、東芝はメモリ事業を売却せずに、現在の東芝の姿を維持した形で、企業再生が可能になります。これで、ウエスタン・デジタルとの裁判もなく、技術の外国への流出も回避できます。
会社更生手続の中で、政府系ファンドをスポンサーにし、投資ファンドは日本航空の事例の様に、業績回復後に株式上場を果たし、投資資金を回収するのもひとつの考え方です。
債権回収が最優先である金融機関は、債権カットを伴う会社更生法には難色を示すでしょうが、東芝の企業再生を最優先に考えるならば、収益の柱であるメモリ事業を売却せずに更正債務を分割で弁済する形での再建が望ましいと考えます。
会社更生手続きを経た日本航空は見事に再生し再上場も果たしています。東芝ならば会社更生手続で圧縮された債務を自力で弁済する再生が可能ではないかと考えます。
(以上、全文)
*本稿作成時の状況です。その後、韓国企業が融資と言いながら、実は貸付金を東芝の株式に転換する事が出来る特殊な融資(新株予約権付社債、転換社債といいます)を要求していることが明るみに出て、融資だけという話と違うではないかと非難が出て、交渉は停滞している様子です。
嫌な予想が的中したようです
先日、ブログで触れた疑念が的中しました。
やはり、SKハイニックスは東芝のメモリ事業の株式を取得する仕掛けを混ぜこんでいたということです。
東芝の社長がこれを知らないとは思えません。
株主総会における社長の説明は明らかに不十分です。
今後、東芝は、売却交渉を中断し、株主らに対し、説明会を開催して、その詳細について報告するべきだと考えます。
これまで報道されている事実と異なる以上、売却条件の大前提は崩れました。産業革新機構は、SKハイニックスを買い手候補から除外し、技術流出とWDへの対応を速やかに行うべきでしょう。
蛇足ですが、2014年3月14日に不正競争防止法違反容疑で逮捕された東芝とパートナー企業であるサンディスクの元技術者であった容疑者が、2007年~2008年にかけて半導体メモリの微細化に関する研究データを不正に持ち出し、韓国の半導体メーカーSKハイニックスに提供したとされる事件を起し、東芝が提訴。裁判になりましたが、SKハイニックスが和解金を払うことで決着した経緯もあります。
(ウォールストリートジャーナルの記事を転載)
東芝の半導体メモリー事業子会社「東芝メモリ」の売却計画には、韓国の半導体大手 SKハイニックス が最大33%の株式を取得するオプションが含まれている。合意案に詳しい関係者が明らかにした。東芝は公式発表でこうしたオプションを明らかにしていない。
SKハイニックスが東芝メモリの少数株主になれば、東芝メモリの現株主で、SKハイニックスと競合する米半導体大手ウエスタンデジタル(WD)はさらに反発を強めかねない。WDは東芝メモリの売却停止を求めてカリフォルニア州の裁判所に提訴している。
SKハイニックスに株式取得のオプションを与えるという取り決めは、東芝が保有する半導体技術の海外流出を懸念している日本政府の姿勢と相いれないものだ。
東芝は半導体事業の売却を巡り、政府系ファンドの産業革新機構(INCJ)を軸とするコンソーシアム(企業連合)との間で合意に近づいていると発表している。
前述の関係者によると、INCJと日本政策投資銀行(DBJ)が同事業の66%を取得し、残りの33%は米投資ファンドのベインキャピタルが取得する。
SKハイニックスはベインと結んだ契約により、ベインが当初取得する株式の一部、または全部を後日取得することができるという。
東芝が公表したコンソーシアム関連の文書にSKハイニックスの名はなく、綱川智社長はSKハイニックスの資金拠出が融資にとどまると説明していた。
綱川社長は6月23日の記者会見で、SKハイニックスが東芝メモリの議決権を得ることはないため、技術流出は心配ないと話していた。
東芝の広報担当は、売却計画の詳細についてはコメントできないとして、綱川社長に対するコメント要請を拒否した。
前述の関係者の1人はSKハイニックスの役割について、同社は「融資で利益を得る銀行ではない」と述べた。
INCJとDBJはコメントに応じなかった。SKハイニックスの広報担当は、同社が東芝メモリの株式取得を目指しているかどうかについてコメントを控えた。
WDはすでにSKハイニックスのコンソーシアム参画に懸念を表明している。
WDのスティーブ・ミリガン最高経営責任者(CEO)は東芝に宛てた6月25日付の書簡で、「SKハイニックスの参画は、技術流出をもたらし、合弁事業に損害を与える可能性を高めるものだ」と述べた。同書簡は報道陣に公開された。
経済産業省の報道官からは、今のところコメントを得られていない。
原文はこちらをご覧ください。(リンクを貼っています)
(産経新聞の記事を転載)
韓国SKが議決権要求 東芝メモリ、売却契約難航
東芝の半導体子会社「東芝メモリ」の買収で優先交渉先となった産業革新機構などの「日米韓連合」内で、韓国半導体大手SKハイニックスが最大33・4%の議決権取得を要求していることが3日、分かった。東芝は競合企業が当初計画の融資ではなく出資とみなされる形で参画すれば独占禁止法の審査が長期化しかねないと懸念しており、契約締結が難航している。
三重県四日市市の工場を東芝と共同運営する米ウエスタンデジタル(WD)は、売却差し止めを求めて米国の裁判所に提訴しており、14日(日本時間15日)に審問が予定されている。東芝は3日、WDの主張に対する反論書を提出したと発表したが、WDはSKへの技術流出の懸念が顕在化したとして対決姿勢を強めるのは必至だ。
日米韓連合は優先交渉入りした6月23日時点で、革新機構と日本政策投資銀行が議決権の計66・6%を握り、米ファンドのベインキャピタルが33・4%を持つ枠組み。東芝と競合するSKの名前は出資企業の中になく、ベインに融資する形で参画するため、東芝の綱川智社長は「SKには議決権がなく、技術流出は防げる」と指摘していた。
だが関係者によると、SKは協議の過程で、将来的にベインから議決権の一部か全部を取得できる権利などを持つことを求めたという。33・4%の議決権は重要議案への拒否権を発動できる
(ロイターの記事を転載)
[ソウル/東京 3日 ロイター] - 東芝半導体メモリー事業の入札で優先交渉先に選ばれた企業連合に対し、韓国半導体大手SKハイニックスが転換社債(CB)を通じて資金拠出するスキームを提案していることわかった。
将来的に同事業にSKハイニックスが議決権を持つ内容を含むとみられ、東芝側の説明と食い違っている可能性がある。複数の関係者がロイターの取材で明らかにした。
関係者によると、東芝子会社「東芝メモリ」の買収スキームでSKハイニックスは、米投資ファンドのべインキャピタルに対してCB引き受けを通じて資金供与するという。
東芝は先月21日、「東芝メモリ」の売却で、政府系の産業革新機構、べインキャピタル、日本政策投資銀行による企業連合を優先交渉先に選んだと発表。併せて、SKハイニックスがべインに融資する立場で同連合に関与していると説明していた。
23日の記者会見で東芝の綱川智社長は「SKハイニックスには、企業連合の1つに融資することで議決権がない」と明言。議決権がないことを根拠に、SKハイニックスに技術流出する懸念はないとの見方を示した。
しかし、SKハイニックスが一定の条件で株式に転換可能な社債であるCBを引き受けるならば、将来的に東芝メモリの議決権を持つプランを含む可能性が濃厚だ。
別の関係者によると、今回の入札に関係した経済産業省は、SKハイニックスに対してCBでなく融資による資金拠出を求めたものの、SK側はそうした要請を受け入れなかったという。
革新機構などの企業連合が提示した買収額2兆円のうち、べインが8500億円を出資し、このうちSKハイニックスが約半分の4000億円を融資するという。関係者によるとCBの引き受けはこの融資と並行してスキームに盛り込まれている。
東芝側は、企業連合と6月末までの最終合意を目指していたが、7月入りした現在も実現していない。
革新機構の志賀俊之会長は先月30日、記者団に対し「企業連合には関係者が多く、横の調整に時間がかかっている」などと、最終合意に至っていない理由を語った。
関係者によると、SKハイニックスがべインに供与する融資が近い将来に株式に転換される見通しではないという。
東芝とSKハイニックスはフラッシュメモリー市場で競合。今回のスキームにSKハイニックスが議決権を持つ可能性があると各国の競争法上の審査で判断された場合は、審査期間が長期化し、東芝が必達目標にしている来年3月末までに売却が完了しない可能性も否定できない。
SKハイニックスがCBを通じて資金拠出する案について、同社はコメントを避けた。べインからはコメントを得られていない。東芝の広報担当者は、取引に関する特定の内容には答えられないとしている。
(Se Young Lee、浜田健太郎)
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東芝半導体売却の動きを見て
東芝の半導体事業売却ですが、東芝は日米韓連合に対し、韓国を外すことが売却の条件であると交渉するべきです。
東芝の記者会見記事を読むと、質問者の未熟さを感じます。
(以下、日本経済新聞から転載)
東芝の綱川社長は23日の記者会見で、売却先に入る海外メーカーについて、台湾企業は拒否して韓国企業を認める理由について「ハイニックスは3社のうち1社に資金を貸すだけで、議決権がなく経営に関与しない」と述べた。ハイニックスは融資の形で参画するもよう。
(以上、転載)
「貸付」という言葉に違和感を感じないのか。SKハイニックスは銀行ではありません。
この貸付という発言には、後で「株式」に変えることができる新株予約権付社債である可能性を排除できません。なぜ、記者はこの点を質問しないのでしょうか。
一方で、産経新聞は「ゆうちょ銀行が連合に加わる」と報道しています。
単純な貸付ならば、SKハイニックスを除外し、代わりにゆうちょ銀行を加えた形で進めるべきでしょう。
これにより、技術流失と独占禁止法クリアの2つの課題を解決することができます。
韓国政府の二転三転する発言を見るまでもなく、売却が決まったら何を要求するかわからないのが韓国。
このリスクを今の段階で除外するべきです。
日経産業新聞に寄稿しました
本日(平成29年2月9日)の日経産業新聞18面に弊社社長のインタビュー記事が掲載されておりますので、ご案内致します。