情報管理はM&A最重要事項
報道では、NHK職員3名による事件でインサイダー取引行為が問題視されていますが、この事件の本質は、インサイダー取引行為自体ではなく、本来、発表前 に外部に漏れるはずがないM&A情報を、どの様にNHKが入手できたという点がより重要ではないでしょうか。そこで、今回のコラムは、M&Aを進める上で “情報管理の重要性”について触れることにします。
言うまでもなく、M&A業務は企業の最高機密を扱う仕事です。M&Aでは、M&A当事者(売り手側、買い手側、当事会社)以外に多くの関係者(M&A支援 会社または金融機関のM&A担当部署、価格を算定する会計事務所系コンサル、契約書の確認をする法律事務所、不動産の評価をする不動産会社など)がチーム を組んで進行します。これら関係者はM&Aに関与するときは、契約で守秘義務を負った上でM&Aに参加します。
しかも、上場会社が関連するM&Aでは、情報開示について証券取引所の開示ルールがあります。代表的な証券取引所である東京証券取引所の開示規定(有価証 券上場規程第414条関係)ですと、M&A情報等の開示時間に報道機関と市場参加者へ同時に開示される規定になっています。詳しくは、こちらをクリックし て下さい。
http://www.tse.or.jp/rules/td/outline.html
読者の中には、「あれ?」と思われた方も多いと思います。そうです!報道機関へM&A情報を先行して開示することはありません。上場会社のM&A情報は、 株価への影響があるので、証券取引所が終わる午後3時以降に公開されるのが通例です。にもかかわらず、NHKが原稿を入手したのは午後2時過ぎです。と言 うことは、NHKはどの様にこの情報を入手したかが問題になります。
さて、ここから先は仮定の話であり想像・憶測の域を出ませんので、そのつもりで読んで下さい。第三者へ内部者情報を開示前に漏洩できるのは、M&A当事者 とM&A関係者しかいないはずです。今回の事件では、M&A当事者(買い手側、売り手側、当事会社)は、ゼンショー、前カッパ会長のT氏、カッパ・クリエ イトの三者が該当しますが、ゼンショーのHPを見ると、同社の名前が繰り返し報道されることに非常に困惑しています。確かに、経済犯罪(インサイダー取 引)をしたのは、NHK職員であり、M&A当事者であるゼンショーは大きな迷惑を被った訳です。
そうなると、守秘義務に違反しNHKへM&A情報を漏らしたのは、M&A関係者という可能性も排除できなくなります。憶測に過ぎませんが、M&A関係者の 中に、NHKへ機密情報を話し、見返りに金銭を受領している者がいる可能性も排除できません。仮に、金銭を受領していなくても、M&A経験の浅いアマちゃ んが「私の成約したM&Aを大きく取り扱ってほしい!」という功名心に駆られて守秘義務に違反してM&A情報を漏らした可能性も考えられますね。(笑)も しも、今回の経済事件の調査報告で、M&A関係者が守秘義務に違反してNHKへM&A情報を漏らしたのであれば、この関係者とその会社の信用は失墜しま す。つまり、“M&A案件進行中に外部へM&A情報を漏らすような会社を誰が信用できるのか。”という事になります。憶測・推測の話はこの辺りで終わりに します。
まとめになりますが、この様な経済事件を起こさないためには、情報管理を徹底し、報道機関であれどこであれ、M&A情報を事前に第三者には話さないという当たり前すぎる原則を徹底することしかありません。繰り返しになりますが、今回のインサイダー取引事件は、本来ならば、一般投資家と同時に報道機関へ開示されるはずのM&A情報が、情報管理上の問題で一部マスコミに事前に漏れた。しかも、このマスコミでは5千人がこの情報を見ることが出来たため、インサイダー取引を行った職員が3名いたということになります。で すから、インサイダー取引も問題ですが、情報管理にスポットライトを当てる必要があるわけです。一般論ですが、M&A専門組織が大きい場合によく起きるこ ととして“情報の共有”があります。これは100人近くのM&A担当部門全員が、自分が担当するM&A案件だけでなく他の部員が扱うM&A案件全ての進捗 情報を共有することを指します。この様な場合は、情報管理が難しいですね。案件を担当する者だけでM&A情報を共有する方が、外部に漏れる可能性は少ない と考えられます。小職の経験からも“情報管理が適切に行われているM&Aでは公表前にマスコミなど第三者へ情報が漏れることは決してない。”と言っても差 し支えないと思います。いかなる理由があるにせよプロとして守秘義務を破り第三者へ進行中のM&Aを漏らすことは許されません。情報管理はM&A管理の最重要要素です。
- [2008/01/19 20:53]
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