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証券界に巣食った「東京の帝王」、増資インサイダーの渦中に 

ロイターが増資インサイダー天国日本の実態に深く切り込んでいますので紹介します。証券会社へ多く手数料を払う者には、金融商品取引法を犯してもインサイダー情報を与え、証券会社へ巨額手数料を払わない一般投資家は、これらインサイダー情報を駆使した投資家の空売りの影響で損を被る。日本の証券市場の実態でしょうか。

(以下、ロイターのサイトから)日本で最も知られたヘッジファンドマネジャーの1人、エドワード・ブローガン氏が7月に入って姿を消した。「キング・オブ・トウキョウ(東京の帝王)」と呼ばれた53歳の米国人は、富、名声、そして現代美術の庇護者としての地位、すべてを手に入れているかに見えた。

旗艦ファンド「ホイットニー・ジャパン・ファンド」の運用資産は、絶頂期には10億ドルを超えた。

そのブローガン氏は現在、増資インサイダー問題をめぐる当局調査の渦中にいる。彼が率いるジャパン・アドバイザリーは6月29日、金融庁関東財務局に登録を取り消され、証券取引等監視委員会から課徴金の支払いを命じられた。東京・日本橋のオフィスは閉まったままだ。監視委は日本板硝子による2010年8月の公募増資をめぐり、ジャパン・アドバイザリーが未公開情報を事前に入手、板硝子株を空売りしたと認定した。

監視委が「増資インサイダー問題」の調査に乗り出してからおよそ2年、処分勧告を出したのはこれで5件目となった。今は海外にいるというブローガン氏を含め、いずれのケースも個人は告発されていない。

「彼は日本にいない。いつ帰ってくるのか聞いていない」と、ブローガン氏の妻である順子夫人はロイターの取材に答えた。「彼は日本政府によってスケープゴートにされたのだと思う」。

金融庁は圧力を強め、7月3日には引受業務を手がける証券会社12社に対し、ジャパン・アドバイザリーを含むヘッジファンドに未公表の増資情報を漏えいし、手数料を受け取っていなかったかなどの実態調査を命じた。事情に詳しい関係者2人によると、ブローガン氏はこの3日後に日本を去った。

ジャパン・アドバイザリーの入口には「Temporary Closed(臨時休業中)」 と書かれた札が下がっている。ホイットニー・ジャパン・ファンドの運用成績は市場平均を大きく上回っていたが、業界データによると、6月末時点の運用残高は2億2800万ドルに減少。2005年の約6分の1になった。

ロイターはオフィスの電話や携帯電話、電子メールを通じて取材を申し込んだが、ブローガン氏からはいまだに返事がない。オフィスに残る事務員もコメントを控えた。

<儲かる情報に特別ポイント>

170億ドルとも言われる日本のヘッジファンド業界は、ある意味で規制があいまいなままだった。それだけに、ジャパン・アドバイザリーの案件は今後の展開が注目されている。

金融庁にとって、ヘッジファンドの規制は少なくとも2007年からの懸案だった。当時の渡辺喜美金融担当相は、ヘッジファンドの中には排除すべき「ピラニア」がいるといった趣旨の発言をしていた。

増資インサイダー問題の調査を進める民主党の大久保勉・財務金融委員会筆頭理事は、ロイターに対し、監視委が調査すべきヘッジファンドのリストを作成する考えを明らかにした。取引のデータを収集中だという。

2000年の設立当時、ジャパン・アドバイザリーは米ヘッジファンドのホイットニーの傘下だった。しかしホイットニーによると、ジャパン・アドバイザリーとの関係を2011年12月に打ち切り、ファンド運用にかかわる組織の経営権をブローガン氏らに譲渡した。この見直しは、当局による今回の調査とは無関係だという。

ロイターが取材した10人以上の証券会社関係者やブローガン氏の同僚は、彼のことを強引な投資家と表現する。儲けにつながる情報にどん欲で、受け取るサービスの水準に応じて証券会社に報酬を支払った。

ブローガン氏の同僚によると、ジャパン・アドバイザリーは10年以上、数千万ドルにのぼる手数料をゴールドマン・サックスやドイツ銀行、シティ グループ、JPモルガン、野村証券などに支払ってきた。いずれの証券会社の広報担当者も、ロイターの取材にコメントを控えた。

事情に詳しい関係者3人によると、ブローガン氏とジャパン・アドバイザリーは証券会社の担当者に特別ポイントを与えることがあり、手数料の大きさを左右したという。機関投資家がポイント制で証券会社に手数料を支払うのは日本では珍しくない。しかしブローガン氏のやり方は非常に恣意的で、内部情報の漏えいを促す可能性があったと、関係者は指摘する。

日本板硝子のケースでは、ジャパン・アドバイザリーは増資が発表される4日前に680万ドル分の株式を空売りした。板硝子の株価は発表までに約8%下落した。

監視委は、増資の主幹事をつとめた大和証券(8601.T)の元社員が事前に情報を漏えいしたとみている。大和は謝罪し、社内に調査委員会を立ち上げた。監視委が大和に注目したのは、ブローガン氏から高いポイントを得ていたためだと、事情を直接知る関係者は言う。

日本板硝子の増資で不正が認定されたのは、ジャパン・アドバイザリーが2件目。1件目は和製ヘッジファンドのあすかアセットマネジメントがインサイダー取引をしたとして課徴金納付命令を受けた。監視委は、あすかに増資情報を漏えいしたのはもう1社の主幹事証券、JPモルガンだったとみている。

<高級な接待>
ブローガン氏に取り入ろうとしていたのは大和だけではない。証券会社の担当者は夜の接待に精を出した。高級なイタリアンレストランから始まり、新宿・歌舞伎町のストリップクラブに行くのがよくあるパターンだったと、4人の関係者は話す。勘定は数千ドルにのぼることもあったという。

「彼は権力を振りかざし、周囲はまるでひれ伏すように仕えていた」と、証券会社の関係者は明かす。「東京の帝王。我々はそう呼んでいた」。

ブローガン氏にとって、今回の件は30年間のキャリアで最も大きな挫折だ。同氏が初めて来日したのはバブル経済華やかりし1980年代。1991年までに中堅の丸三証券(東京都中央区)の調査部長へ昇進、それからソロモン・スミス・バーニーで自動車担当アナリストを務めるなど、外資系証券会社を渡り歩いた。短期間だが、ジュリアン・ロバートソンが創設したタイガーマネジメントの日本法人でも働いたことがある。

そして2000年、ホイットニーに雇われ、ジャパン・アドバイザリーの設立に参画した。 ホイットニー・ジャパン・ファンドの運用資産は2005年までに13億ドルに拡大。業界データによると、2000年に100万ドルの運用を委託していれば、5年後には250万ドルになった計算だ。

<オフィスに並ぶ美術品>

階段を駆け上がるブローガン氏は、日本の現代美術への関心を深めた。「芸術作品のファンドを立ち上げたくて彼に近づいた。彼は有名人だったから」と、キュレーターのジョニー・ウォーカー氏は言う。

ファンド構想はとん挫したものの、ウォーカー氏は友人として、 アートの指南役としてブローガン氏と交流を続けた。そしてジャパン・アドバイザリーのオフィスに今も飾られている、美術品の収集に一役買った。鑑定家によると、オフィスの廊下に並ぶ作品だけでも10万ドル以上の価値があるという。

美術への関心は、ブローガン氏を金融界とは別の世界に引き込んだ。昨年7月、彼は金融出身者としてただ一人、アート関係者が集まる仮面パーティーに参加した。アートの専門ライターや自称霊能者が出席した会の様子は映像に収められ、上半身裸で給仕するウェイターが映っている。東日本大震災と原発事故から4カ月、参加者は日本の危機にどう立ち向かうかを問われ、アロハシャツ姿に黄金の仮面をつけたブローガン氏はエネルギー政策に言及。「私が首相なら環境分野で日本をリーダーにしてみせる」と答えていた。

ほんの数週間前まで、ブローガン氏は近所で友人や証券関係者と会い続けていた。港区広尾の自宅から数分のところにある小さなバーにはお気に入りのケンタッキーバーボン「レベル・イェル」がボトルキープされていた。今は空のボトルが店の記念品のように棚に残されている。

ブローガン氏は帰ってくると、ウォーカー氏は言う。「エド・ブローガンは少し休んでいるだけだ。焦ってなどいない」。

(以上)

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