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スターバックス・コーヒー・ジャパン(ジャスダック)への株式公開買付開示資料を読んで 

スターバックス・コーポレーション(アメリカ合衆国)の間接的な完全子会社であるSolar Japan Holdings 合同会社が、スターバックス・コーヒー・ジャパン(ジャスダック)の株式へ株式公開買付を実施し、上場を廃止して完全子会社化を目指すと発表されました。この株式公開買付が、大変興味深い論点がありますので、今回、触れる事にします。

最初に概要について説明します。

① この株式公開買付前のスターバックス・コーヒー・ジャパンの株主構成ですが、サザビーリーグとエスシーアイ・ベンチャーズ・エスエル(常任代理人:ゴールドマンサックス証券会社)が、それぞれ39.54%づつを保有しており、この2社の株式を合計すると、株主総会での特別決議を可決する事ができます。

② 今回の公開買付者は、Solar Japan Holdings合同会社というエスシーアイ・ベンチャーズ・エスエルの100%子会社です。

③ スターバックス・コーヒー・ジャパンの完全子会社化を行うために二段階の株式公開買付方式を採用しています。

初回の株式公開買付価格は、965円と設定されており、これは、平成26年9月24日の終値である1464円を499円も下回るディスカウント価格です。初回の株式公開買付に応募を表明しているサザビーリーグ以外に応募者はいないはずです。本当は相対取引でサザビーリーグからスターバックス・コーヒー・ジャパン株式を965円で買い取りたかったのでしょうが、上場株式の発行済み株式総数の三分の一超の株式を買い付ける場合、株式公開買付に拠らなければなりませんので、こういう方法を採用したのだろうと考えられます。

⑤ 初回の株式公開買付が成立し、Solar Japan Holdings合同会社とエスシーアイ・ベンチャーズ・エスエルのスターバックス・コーヒー・ジャパンの持ち株比率が、79.08%になった後で、一般株主を対象とした第2回株式公開買付を1465円で行います。スターバックス・コーヒー・ジャパンが同社の従業員に発行している新株予約権は、115,850 円で買い取ります。

⑥ 第二回の株式公開買付成立後、Solar Japan Holdings合同会社は、スターバックス・コーヒー・ジャパンを種類株式発行会社とし、発行する全ての普通株式に全部取得条項を付す旨の定款の一部変更を行い、当該普通株式の全部の取得と引き換えに別の種類の当社の株式を交付することに係る議案を、平成27年2月開催予定の当社の臨時株主総会で可決成立させ、種類株主総会を本株主総会と同日に開催し、少数株主を締め出して、スターバックス・コーヒー・ジャパンを完全子会社にします。

⑦ Solar Japan Holdings合同会社は、完全子会社化手続きが完了した後、スターバックス・コーヒー・ジャパンとの間で、スターバックス・コーヒー・ジャパンを存続会社となる合併を行います。

さて、本件で、私の興味を引いた主な部分2ケ所について触れていく事にします。

1. なぜ、サザビーリーグは市場価格よりも安い株式公開買付に応じたのか?

 開示資料を読んでいくと、以下の様な記載があります。
“当社は、スターバックス・コーポレーショングループから一連の契約(以下、「本ライセンス契約」といいます。)に基づく包括的なライセンスを受けて事業を行っています。具体的には、当社は、スターバックス・コーヒー・インターナショナルより、日本国内におきましてスターバックス コーヒー ストアを開発・運営する独占的権利を付与されており、スターバックス・コーヒー・インターナショナルの完全子会社であるエスビーアイよりスターバックス コーヒー ストアにおける商標、意匠、マーク、技術及びノウハウの使用許諾を、また、スターバックス・コーポレーションよりコーヒー豆や他のスペシャルティ商品の供給を受けております。当社の有価証券報告書で開示されているとおり、本ライセンス契約は平成 33年3月31日に終了し、契約期間終了時の自動更新の定めはありません。”また、“スターバックス・コーポレーションは、当社が同社の完全子会社にならない限り、本ライセンス契約を平成33年3月31日の期間満了をもって終了させ更新しないことを前提としているとのことです。本ライセンス契約においては、契約終了に伴い、スターバックス・コーヒー・インターナショナルが当社の店舗の資産を公正な時価で取得することができる旨が定められており、これを行えば、単純な手法により独占的なライセンスを解消することが可能です。”ともあります。

つまり、平成33年3月31日にスターバックス・コーポレーションとの自動更新の取り決めがないライセンス契約が満了します。もしも、スターバックス・コーポレーションの完全子会社にならなければ、スターバックス・コーポレーションは、スターバックス・コーヒー・ジャパンとのライセンス契約を更新しません。同時に、スターバックス・コーポレーションは、スターバックス・コーヒー・ジャパンの店舗資産を「公正な時価」で買い取るという話を突き付けられたと考えられます。もしも、ライセンス契約終了時に、既存店舗の買取条項がなければ、サザビーリーグが既存店舗の立地を活かして他のブランドでのコーヒーチェーン展開を行う事も可能になります。しかし、契約で既存店舗もスターバックス・コーポレーションに持っていかれるので、事業展開ができません。この様な事情で、サザビーリーグは、泣く泣く市場価格よりも安い金額で、スターバックス・コーヒー・ジャパンの株式売却を受け入れざるを得なかったのだろうと考えます。

この初回株式公開買付価格の965円は、ライセンス契約が更新されず、スターバックス・コーポレーションが、スターバックス・コーヒー・ジャパンの店舗資産を「公正な時価」で買い取る場合の評価金額(FAによるDCF法計算)の範囲に入りますが、株式公開買付が成立すれば、スターバックス・コーヒー・ジャパンは事業を継続するので、このDCF法で採用したターミナル・ヴァリューの計算には首を捻ります。この点は、次に触れます。

2. なぜ、DCFによる企業価値計算のターミナル・ヴァリュー推計で清算価値を採用したのか?

少し、専門的な話になりますが、DCFで株価を計算する場合、数年間の事業計画を作成し、この各年度のフリー・キャッシュ・フローを現在価値に直したものに、ターミナル・ヴァリュー(残存価値)を計算し、これを加えたものを事業価値とします。このターミナル・ヴァリューの主な導出方法は、以下の3通りです。

2-1. 継続価値を使用した計算(DCF法による永久還元方式の活用)
2-2. 清算価値を使用した計算(資産価値の金額換算)
2-3. マルチプル法を使用した計算(PERやEV/EBITDA倍率の活用)今回は省略

2-1. 継続価値での計算

残存価値の計算方法のひとつで、一般的に使われるものが、継続価値での計算です。ファイナンスの教科書にもよく出ているものです。これは、事業を継続する前提で、最終年度の次年度以降のフリー・キャッシュ・フローが一定で、未来永劫続くという前提での計算です。

残存価値の計算は、以下の通りになります。

■最終年度の次年度以降フリー・キャッシュ・フローが一定の場合
 残存価値 = [最終年度の次年度のフリー・キャッシュ・フロー/割引率 ]

■最終年度以降CFが一定成長する場合
 残存価値 = [最終年度の次年度のフリー・キャッシュ・フロー/割引率-成長率]


DCF計算上は、この残存価値を最終年度の加重平均資本コスト(減価係数)で、現在価値に直します。この計算は、主に企業価値や事業価値における残存価値の導出に使われます。

ここからは直感的な部分ですが、大体、ターミナル・ヴァリューが企業価値全体に占める割合が70%から80%位であるものが多く、80%を超えるものは、売り手側が、希望売却金額を正当化するために、無理やり最終年度のフリー・キャッシュ・フローを大きくしていることが多い様な気がします。

これの逆もあります。一般論ですが、最初に取引価格を決め、その範囲に株価計算結果が納まるように、事業計画や特にその最終年度の数字を株価からの逆計算で作ることも行えます。これは、まっとうに計算した結果が、思惑の取引金額よりも高い時に、価格を調整するために事業計画を変更するテクニックです。DCFによる評価が根強い理由のひとつだと思っています。

2-2. 清算価値を使用した計算
これは、企業を清算した場合どうなるかという計算にあります。これは、貸借対照表上の資産と負債を清算したという前提での計算となります。この清算価値は、企業や事業の残存価値を計算するには不向きで、期間が限られている設備やプロジェクトの評価における残存価値として用いられるのが一般的です。紙面の関係で、簿価、時価の説明は省きます。

 ターミナル・ヴァリュー = その年度における資産価格-負債価格

さて、継続価値なのか清算価値なのかという問題ですが、将来にわたり事業継続を前提とした場合、継続価値を使用し、予測期間内に事業を終了する場合や設備投資計画では清算価値を用いることが多いと言えます。言い換えますと、永続して存在することが前提である企業の場合は継続価値を採用し、一定の期間で終る設備投資計画プロジェクトを評価する場合は清算価値を用いるのが、一般的だと思います。

さて、DCFから話をスターバックス・コーヒー・ジャパンの株式公開買付に戻します。スターバックス・コーポレーションは、このM&Aが完了し、スターバックス・コーヒー・ジャパンが、その完全子会社になった後も、スターバックス・コーヒー・ジャパンの事業を続けると述べています。

ところが、DCFによる株価算定では、買い手側のアドバイザーも、当事会社のアドバイザーも、スターバックス・コーヒー・ジャパンが、平成33年まで事業を続け、平成33年以降、ライセンス契約に基づいて店舗資産を売却する計算、つまり、清算価値評価しています。

ここで気になりましたのは、少数株主の立場で、継続価値を使ったDCFによる株価算定が行われていないことです。
先に、今回の株式公開買付の買付価格を導出するに際し、DCF法でのターミナル・ヴァリュー計算で清算価値を採用した事に首を捻ると書きましたが、事業を継続する以上、ターミナル・ヴァリューの導出は、継続価値で見るべきではないかと考えるからです。このバリュエーションの妥当性は?という話です。

なぜ、サザビーリーグは、低廉譲渡による寄付金認定のリスクをとってまで、965円で売る事を決めたのか?スターバックス・コーヒー・ジャパンが、株式公開買付後も事業を継続する以上、1465円を主張すべき、いや、したのだけど押し切られた?個人的に気になる部分です。

一般株主の立場で考えますと、まずは、株主自身が、継続価値を前提とした株価計算を行い、1465円が妥当なのかどうか、そして、その結果次第で、この株式公開買付に応募するかどうかを判断する事ではないでしょうか。株価は、株式公開買付価格に近付く(1465円-証券会社手数料)はずです。

と言いますのは、株式公開買付後の株主総会で予定されている定款変更により、全部取得条項付株式が発行される場合、取得対価の価額に不満な株主については、一定の手続きの下で、裁判所に対し取得価格の決定の申立てをすることが認められているからです。この公開買付価格が安すぎると考える株主の方には、法律で救済方法が残されています。この手続きには、いくつかの要件がありますので、弁護士と相談の上、ご自分の判断で、この株式公開買付に応じるかどうかをご判断ください。

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